”恒梁会作品展”へ向け最後の窯は、久々に自宅0.1㎥。
今回は引出黒でひと窯。
最高温度まで達した窯のふたを開け、灼熱の炎の中から鉄の鋏で一個づつ引出す。
橙色に輝いていた茶盌は、ジューッという音とともに湯気をあげ、一瞬にして漆黒の肌へと変貌を遂げる。
何度やっても緊張し、血が騒ぐ瞬間だ。
今回、瀬戸のYさんから”恒梁会作品展”の話を頂いた時から、わたしの頭の中でひとつのイメージが浮かんでいた。
阿古陀形の梅樹文ぐい呑。
太田さんが好んで作っていた黄瀬戸の形だ。
わたしはこの形を”写す”ことを決めた。
あるいはそれは、他人から見れば只の模倣と云われるかもしれない。
だが、たとえば音楽家が同志の死を悼むとき、故人の楽曲をカバーするように、
やきもの屋にも同じような追悼のかたちがあってもいいのではないか。
そして窯から引き出した作品の中に、そのイメージにぴたりと合ったものが一つだけ生まれた。
”黒瀬戸ぐい呑”。
これは、亡くなった太田さんヘ向けた、わたしなりの挽歌のつもりです。